先生、もっとかんたんな問題をやろうよ。
これは、私がもう30年以上前に指導していたときの、ある生徒の発言です。この発言者は女子中学生です。私はその生徒に対し、高校入試で必要とされるレベルより高いものを指導していたわけではありません。あくまで、入試のための実力養成をするための指導をしていました。その当時の彼女は、自分の学力を伸ばすために勉強するということよりも、塾でいっぱい問題が解けたという実感が欲しかったのでしょう。もちろん、私は彼女の要望を聞きませんでした。彼女のような要望をもつ生徒は、昔も今もたくさんいると思います。
こういった生徒達は、自分の実力を鍛えるために塾に来ているという気持ちをもっていません。そういった人達にとっては、どんな塾が好ましいのでしょうか。いくつか例を挙げてみましょう。
1.先生は、ちょっと年上のお兄さんかお姉さんのような人で、どんなことも聞いてくれる人。
2.塾でとり上げられる問題は、ほとんど初歩的なものばかりで、解ける喜びがいっぱいになるもの。
3.宿題はほとんど出さない。
4.過去問をたくさん持っていて、普段はあまり勉強していなくても、テストで高得点がとれる。
学校の通知表だけを上げて、高校に入るまで塾に入って勉強する、と考えている人達にとっては、上の1~4を満たす塾は最高でしょう。多くの人達がこの様な塾なら通いたいと思うでしょう。
ところで、昔の敬倫塾も現在の敬倫塾も、上の1~4のどの項目も満たしてはいません。ですから、生徒集めは今も大変です。
敬倫塾本校に通っている生徒達が通っている学区は決してレベルが高いとは言えません。高校に何とか入学できても、難関大学に入学できる生徒の割合が低いままならば、学区全体の教育レベルが低いと言われるのは当然です。例え、学区のレベルが低いと言われても、敬倫塾で育った生徒達なら難関大学に進学することができるということを世間に知ってもらいたくて、指導の基本をずっと変えずに今日に至っています。
敬倫塾は発足当時から高校生を指導していたわけではありません。1977年の3月に入塾した、第1期生から第3期生の多くが難関公立高校に進学しました。しかし、難関大学に合格できた人は、3期生までには、ほとんどいなかったと思います。中学でどんなにしっかり教えても、高校の学習内容に影響を及ぼすものは、百分の1にも満たないものだと思います。難関高校に入学できても、難関大学に入学できる生徒はほんの一握りです。高校の入学はゴールではなく、難関大学を目指す人達のスタートです。だから、第4期生からは高校指導を可能にしました。
先日、ある出版社の名古屋営業所長が来ました。彼が2回目に塾に来たとき、名古屋でたくさんの教室をもっていたある塾のことが話題になりました。その塾は、前述の1~4をすべて満たしている塾です。しかし、日を追うごとに、一部の地域では生徒の数は増やしながら、多くの地域では学力の低い生徒の割合が高くなっていったのではと、その所長は分析しました。
塾の数はふえ続けています。無料体験を実施する塾もふえてきました。しかし、前述の所長は、塾のこのような姿勢には大反対です。本当に自信をもって指導している塾なら、たとえ有料であっても、その塾を体験したいと保護者の方は考えるというのです。事実、多くの無料体験をした後で、敬倫塾で有料体験を受けます。そして、そのほとんどが入塾につながり、長期にわたって在塾してくれます。
所長はまた、生徒に学力が伴っていないとき、塾の指導教材を易しいものに変えるのではなく、それを使いこなせるようにするのが信頼される塾になる秘訣だと言います。
敬倫塾には、多くの教材会社が出入りしています。その中には塾が信頼をもち続けるためのアドバイスをしてくれる人がいます。そういった人達とおつき合いが出来ることが、敬倫塾を支えているような気がします。